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人間には、何かミスをしたり、悪いことをしたような場合、そのミスを指摘する場合と、逆にそのことに何も触れず黙殺して様子をみたりすることがあるもので、それぞれ効果が違ってきます。 人間には、自分の予測していたことが、その予測どおりに起こると、それまで行動パターンをまったく変えないまま、同じようなミスを繰り返すという妙な心理現象が起こることがあります。たとえば、会社における遅刻常習者などがその好例でしょう。 彼は、遅刻するたびに上司から注意を受けるでしょうが、彼にとってそれは予測したとおりのできことです。したがって、注意を受けるあいだは神妙に聞いているでしょう。しかし、その叱責の嵐が吹きぬけると、彼はそうした罰を受けることで、自分の犯した罪がすべて償われたような気になり、ほっとして、また遅刻を繰り返すのです。 ところが、上司が彼の遅刻を責めずに沈黙を守ったとすると、どうなるでしょうか。遅刻を叱責されなかった彼は、当初、当然厳しい叱責を受けることを予測していたでしょう。むしろ、予測したことが予測したとおりに起こったほうが、彼にとってはほっとしたかもしれません。 しかし、その予想が裏切られると、緊張感は解消されず、相手の気持ちや自分の欠点を深く考えるようになります。
じつは、子どものしつけの上でも、この沈黙が大きな効果を発揮することがあるのです。子どももある年齢以上になると、してよいあことと悪いことの区別がついてきます。 悪いこととわかっていてするのは、当然、見つかったら親から叱られることを予測しています。小言を言う親の姿が心に思い浮かんできます。このとき、その子の予測どおり叱ってやれば、先ほどの理由で、子どもはほっとして心の重荷をおろすと同時に、すべてを忘れてしまうかもしれません。 しかし、その期待に反して親が叱らず沈黙を守っていれば、子どもは、いやでも親が何を考えているのか、なんとか探ろうとします。自然、自分の犯したことの意味も考えざるを得なくなるのです。
一つつけ加えると、沈黙は、じつは重要な対話の一つだということが言えます。黙っているあいだは、外に出ない言葉、「内言」によって人間は頭の中で会話を試みます。 インタビューなどでも、不慣れなインタビュアーはその点の認識が浅く、沈黙を恐れてなんとかしゃべらせよう、しゃべろうとします。ベテランはその点をよく心得ていて、沈黙の間をじつにうまく利用します。沈黙を上手に使えば、十分な「内言」が行われ、より充実した「外言」が得られるのです。 これは親子のあいだでも同じことで、のべつまくなしにしゃべ合い、叱り、口答えし合っている親子より、しばしの沈黙を大切にし、「内言」での対話を多く持つ家庭ほど、子どもは思慮深い子に育つことは間違いありません。少なくとも、親がこの「沈黙は金」であることをよく認識していれば、より効果の高い叱り方も可能になってくるのです。 |
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