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母親が子どもに話しかけているのを聞いていると、よくこんな言葉を耳にします。「痛かったでしょう」「頭痛くない?」「熱があるんじゃない?」といった類の言葉です。 たとえば、子どもが転ぶと、走り寄って「痛かったでしょう、大丈夫?」などと言い、ちょっと子どもに元気がないと、すぐ「頭が痛いんじゃない?」などと聞くことが多いようです。 しかし、日ごろ何気なく使っているこういう言い方こそ、子どもの甘えを生み出す一因となっているのです。というのも「痛かったでしょう」「頭痛くない?」という問いかけをすれば、どうしても子どもは、「ウン、痛い」と言いたくなるものです。
質問の仕方で相手の答えを左右できるというのは、人間心理としてよくある事実です。男性か女性か、判然としない図形を見せて、「これは何に見えますか」と問うのと、「これは女性に見えますか」と問うのとでは、後者の問い方をしたときに、「これは女性の姿である」と答える者が圧倒的に多くなるのです。 要するに、転んでほんとうに痛いと思っていたかどうかはともかく、親のこういう問いかけは子どもに「痛い」という返事を強制してしまうところがあります。 子どもは、少しの痛みくらい我慢するつもりだったのが、親の言葉につい甘えてしまうことになるでしょう。またそれで味をしめてしまえば、しまいには、少しも痛くないのに、痛いと言えば親が可愛がってくれると思って、「痛い」と言い出しかねません。
よく言われるように、日本の親には、子どもを厳しくしつけたいという建て前のうしろに、子どもに甘えてもらいたいという親の無意識の心理の表れであり、「誘導尋問」の一種と考えていいでしょう。親がこういう態度であれば、子どもが親のその弱みにつけ込んでくるのは無理もない話です。 こう考えてみると、同じ場面で「痛かったでしょう」ではなく、「痛くないわね」という形の問いかけをしたほうがいいことがわかってくるはずです。こうすれば、子どもは「ウン、痛くない」と答えるのが自然になるわけで、子どもの甘えを封じ込めるためには、日常のこういった何気ない言葉遣い一つにも気を配ることです。 |
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